犬の椎間板ヘルニア
本日の症例は胸腹部の椎間板ヘルニアの手術を行ったわんちゃんについてです。
椎間板ヘルニアはわんちゃんの神経疾患のなかで最も多く発生する病気です。外部からの衝撃により椎間板が変形し、脊椎の中にある神経(脊髄)が圧迫されることで痛みや麻痺が生じます。重度の脊髄損傷が起こると脊髄の壊死を伴う進行性脊髄軟化症になることがあります。この病気は脊髄損傷の24時間から7日以内に発症するといわれており、進行すると呼吸ができなくなるといった命に関わる重篤な症状を引き起こします。
椎間板ヘルニアの治療はいくつかの治療方法を組み合わせて行います。
症状が軽度の場合炎症と痛みを抑えることで改善することがあります。症状が無くなっても再発を防ぐために運動制限や神経の回復を促すビタミン剤やサプリメント、鍼治療などを組み合わせて行います。
排尿障害や痛覚の消失など症状が重度の場合や再発を繰り返す場合には手術による外科的治療が用いられます。手術により脊髄を圧迫している椎間板物質を取り除くことが目的となります。様々な手術の方法があるため脊髄の圧迫の仕方により適した方法が選択されます。
当院では内科および外科的治療の補助治療として再生医療(ADSC療法)を行っています。この治療は幹細胞を神経系細胞に分化させることによる神経機能の再生を目的としています。
今回の症例は歩かない、背中を撫でるとギャンとなく、ご飯を食べないといった症状により来院されました。問診や神経検査、エコー検査により後肢完全麻痺および排尿障害があることが分かりました。脊髄造影CT検査を実施したところ第8~10胸椎間において椎間板物質の脱出が認められましたが、神経検査結果と圧迫の程度が相関しない点があったため脊髄軟化症を疑いMRI検査を実施しました。MRI検査により第9~10胸椎間での椎間板ヘルニアに加えて、第3~4胸椎間から第2腰椎にわたる広範囲の炎症および浮腫があることが分かりました。
一般的に進行性脊髄軟化症は進行が速い場合1週間も経たずに死に至ると言われています。オーナー様の希望により入院での預かりになりましたが、2週間経っても脊髄軟化症で亡くならなかったため改善する可能性に懸けて手術を実施しました。そして後肢麻痺の改善する可能性に期待して再生医療を実施することになりました。

これは手術中の写真で、金属の棒で指しているのが脊髄です。
術後の経過も問題なかったため手術の1週間後からリハビリ及び電気を使った鍼治療を開始しました。手術から3か月後4本足で少し立てるくらいまで回復してきました。
今後もリハビリおよび鍼治療を継続し後肢の回復に努めていきます。
獣医師 團野
