犬 膀胱の移行上皮癌
本日の症例は膀胱に腫瘍ができたわんちゃんについてです。
移行上皮癌はわんちゃんの膀胱に最も発生することが多い悪性度の高い腫瘍です。高齢の女の子に多く発生します。頻尿、血尿、排尿困難といった膀胱炎に似た症状がみられることもあれば、症状がなく健康診断などで偶然見つかることもあります。
診断にはいくつかの検査が必要になります。まず1つ目が超音波検査です。この検査によって膀胱にできた腫瘍を見つけるだけではなく、位置や大きさを見ることができます。2つ目は細胞診やそしkです。この検査は膀胱洗浄液またはカテーテルを用いて腫瘍から細胞を吸引することで細胞を採材することができます。3つ目はカテーテルで採材した尿を用いた細胞診およびPCR検査です。遺伝子検査は細胞診や超音波検査と組み合わせて使うことでより診断の精度を上げることができます。
膀胱の移行上皮癌の治療は大きく分けて2つあります。
1つ目は抗癌剤など薬による内科的治療です。飲み薬の分子標的薬と膀胱に注入する抗がん剤と抗炎症薬を組み合わせて使用します。麻酔をかけずに行うことができ、腫瘍を小さくすることや隠れた転移を大きくさせないことが目的となります。
2つ目は外科手術です。腫瘍の大きさや位置によって膀胱の一部を切除する手術と膀胱をすべて切除する手術に分かれます。腫瘍が大きくなり排尿ができなくなると腎臓に負担がかかり毒素が全身に回ることで命に関わる状態になります。そのため膀胱をすべて摘出し、腎臓から作られた尿が直接外に出るような手術が用いられます。腫瘍の浸潤によって膀胱と一緒に尿道を摘出することがあります。手術後おむつなど飼い主様のサポートが必要になりますが、わんちゃんのQOLの維持に繋がります。
今回の症例はトリミングでお預かり中に血尿が見られ検査したところ膀胱の中に腫瘍が見つかりました。この時1カ月前から頻尿の症状があり、排尿回数が増えていました。そのためまずカテーテルを用いて細胞診検査を行ったところ、診断に至るような腫瘍細胞は見つかりませんでしたが、尿を用いたPCR検査により膀胱の移行上皮癌に存在すると言われているBRAF遺伝子が検出されました。そのためカテーテルを用いた侵襲性の低い細胞診検査をもう一度行ったところ、今回の検査において診断に有意な細胞が採材でき膀胱の移行上皮癌と診断されました。CT検査を行ったところ明らかな転移はありませんでしたが、右の尿管に腫瘍が浸潤している可能性があることが分かりました。
膀胱の移行上皮癌は手術で完全に腫瘍を切除できたとしても再発しやすいと言われている腫瘍です。そのため今回の症例はQOLを低下させるような症状がない事からまず抗炎症薬および抗がん剤による内科治療を開始し、今後尿管閉塞などQOLが低下する状態になった場合外科手術を実施することになりました。今回の症例は内科治療を開始してから徐々に血尿の回数が減少し体調も良好な状態が続きましたが、3カ月半後、排尿は見られましたが腫瘍が大きくなり超音波検査において尿が排出されにくい状態になっていたため今後のQOLの改善のために外科手術を行うことになりました。
本症例は尿道および尿管まで腫瘍が浸潤している可能性があったため膀胱の全摘出及び尿道の摘出に伴う尿管膣吻合尿路再建手術を行いました。
これは摘出した膀胱および尿道です。
手術後排尿に問題がなかったため抗がん剤による治療を再開しました。現在手術から1カ月経過しますが経過良好です。
今後も再発や転移に引き続き注意して治療していきます。
獣医師 團野